夢見の続き



 昼の夢が何を示唆しているのかわからないが、少なくとも不安の部分にかかわっていると思われるのでメモだけはしておこう。わたしはどうやら鉄工所あたりに資材を配達している商店の小僧で、トラックの免許もなければ鉄筋を運べるだけの体力もない小僧っこのようだ。どうやらこの夢は私が中学を追い出されて進学も就職もならずに務めた油店での配送を敷衍しているのか。辺りはやはり育った京浜地帯の海近くの町工場の集落地。境界もはっきりしないままに建てられた、工場の景をなしていない工場に店の親父は私を頼らずに資材を運ぶ。トラックから降りて所在無げにあたりを見回していた私は、集落の中心に半壊のトイレを見つける。大の方は屋根が落ち、おそらく、夢の中の施設とはいえもう使われておらず、それぞれの工場内の施設が役割を果たしているのだろうが、小の方は立小便的簡易機能を果たし続けていると見え、あたりに夢の中の定まらぬ香りを放ってくれている。そこは男子小の施設であるのになぜか砕けた丸い、便器と同じ素材の鉢状のモノが地に据えられている。そして割れた、かっては白磁のような輝きを一瞬は持っていたのだろう器の、いくつもの放射をなしている暗い底から、ヤスデやムカデ、蜘蛛やダンゴムシなどの馴染みのある親しい虫たちに交じって、いく匹もの初めて出会う得体のしれぬ生き物も出入りをしている。なのに、夢の中の私は恐怖は感じていないようだ。ためらい躊躇は伴わず、少年期の力強い噴射を中心部の闇の中にそそぐ。夢であるのが半覚醒に意識されている。私のものはもう、こんなに元気でもなく、放出されるものはダラダラノロノロと力を持たないから。放出を終了した私は、だれも話しかけてはこない、農家の前庭のような工場を一周し親父を探すが事務所の中には入らない。そこにはきっと牛乳配達のあと務めた鉄工場の内部のような秘密を隠しているから、入っていくことを謝絶されているのだとぼんやりとした皮質で納得させる。なんのために遠い日の記憶を秘密めいた形で垣間見せ、探らせる手段は最初から持たせないかはわからないし、どうせたわいのない午睡なのだし。ただ、夢の中で小を果たすと幼児期は必ず粗相をして怒られたものだったが、長じてはそれはなくなっている。その秘密は闇がすいとってでもくれているのか、やがて飲み込まれる私にはわからない。じき寝仔たちに起こされる時間となる。
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[ 2016/11/11 16:16 ] たぬきばかし | TB(0) | CM(4)

雨の日のご本読み



しとしとふるなら  ふればよい
おやまのたぬきも  ないている
おにわのぐみの   あかいみが
たべたいものよと  ないている
              しとしとふるなら  ふればよい
              こづれのりすさん  やってきて
              たかいこずえの   そのうえで
              しいのみみのれと  みずをやる
しとしとふるなら  ふればよい
あたしはおうちで  ごほんよみ
ごほんのこどもは  かわいそう
かさをなくして   でられない
[ 2012/06/09 12:46 ] たぬきばかし | TB(1) | CM(0)

他愛のないお風呂のお話



 観音山の狸である。暑いので出てきてあげた。なに?お話が聞きたい?文治と爺がお風呂に入ったか?向こうに見える明かりは何かと?あれは、田んぼに映る月の光じゃ、なに、わたしのお風呂やさんだとな?

        たんたん狸のお風呂やさん

 文治は、じじ父さんと一緒に、お風呂に入りました。お風呂場の窓の外は、ひのき林になっていました。その林の向こうから、コロリンコロコロと楽しげな音楽が聞こえ、なにやら明るく、キラリコラリと光るものも見えます。
 文治はじじにたずねました。
 「あれは狸のお風呂屋さんだよ」
 じじ父さんはおしえてくれました。お風呂からあがって寝巻きに着替え、文治は父さんと一緒におやすみしました。あったかーいじじ父ちゃんに抱かれながら、文治は夢も見ました。
 どんな、文治の夢だったのでしょう?さあて、むらさき色のうすい光の中を、遠くに見える明かりに向かってじじと文治は歩いています。もうすぐ十五夜なのでしょう。明るい月で石ころさえも良く見えます。
 すると、いつの間にか、ウサギにりすに、さるにきつね。文治とじじのまわりをどうぶつたちが歩いています。お風呂おけを手にして熊さんも、八つぁんと一緒にやってきました。お風呂屋さんは屋根とかべのしきりのない家です。屋根とかべがないだけで、文治の家とおんなじです。
 いり口にはたぬきさんがすわっていて、どうぶつたちは、木の葉のお金を払っています。
 「大人とことり」
 じじと一緒に入ります。文治は、いつの間にか、お風呂姿になっていました。
 どの部屋のお風呂も、お湯が一杯にあふれていました。
 じじと文治は、いいにおいのする、ピンク色をしたお風呂にはいってみました。
 となりの、ミルク色をした大きなお風呂では、熊さんと八つぁんと大家のおじさんが何か楽しそうに話しています。子りすと子うさぎは、青い湯ぶねの中でもぐりっこをして、おかあさんにおこられています。それでも楽しくてすぐまたもぐりはじめます。さるのおじいさんのとなりでは、ウグイスが新しい歌を聞かせています。でもおさるのおじいさんは、本当は外のかえるさんたちのオーケストラが聞きたいのです。 かえるさんたちの楽隊は、静に整然と、かえるの歌をかなでています。
 文治はじじに
 「お風呂ってきもちいいね」
 と鼻をすりつけるように、胸の中にもぐりこんでいきました。じじは、あたたかく文治をだきしめてあげました。
 文治の見た夢はそれだけです。文治がよりそって寝たじじの夢もそれだけです。でも外ではまだ、狸のお風呂屋さんとかえるさんたちのオーケストラは続いていました。幸せの神様の見せてくれた夢は、ほんのちょっぴりでしたが、でも、文治もじじも、明日は気持ちのいい朝をむかえることでしょう。ささやか山から昇る日の出で・・・

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 文治は今日はもう、爺のおなかでやすみます。
[ 2012/06/01 11:42 ] たぬきばかし | TB(1) | CM(6)

老いは負い目か、命は邪魔か?



 え、今日は文治君が怪我をしちゃってるため、なんとなく畑にも行かれないし、こんなときは観音山の狸さんに来てもらって、お話書いてもらいましょう。
(観音山狸) 狸である。爺がそこにいて、文治がいて、鶏がいて、雛がいて、畑仕事してるのな。ウン、わかった、こうしよう、できたぞよっと。じゃあ、狸は山に帰るからね。



   文治とひいじい

 文治は、お父さんのおじいさん(ひいじいさんというのを最近知った)が好きになれなかった。いつ見ても汚らしくって、のろくさくって、汚れた雀色をしていると母親が言っていた。その通りだと思った。
 文治にはおじいさんもいた。こちらはまだ元気で、少しばかりはなれたところにある、おじいさんが建てたという、明るい色の洋館風に、おばあさんと二人で住んでいた。いつも明るい色のファーマールックで畑に立ち、野菜の種を採っては種苗会社に渡していた。
 ひいじいさんは、おじいさんの家と文治の家とを、鍬を担いでいったり来たりしては、畑に出かけていった。年齢のことは文治ははっきりとは聞いていなかったが、去年、麦だか、米だかのお祝いをしたというのを、かすかにおぼえている。
 おじいさんは、お酒は呑まない人だったので、ひいじいはおじいさんの家に行って泊るより、文治の父さんに、お茶碗についだお酒をもらう方がうれしそうだった。昔からあるというこの家は、ひいじいさんのお父さんが建てたものを、文治の父親が改築したものだという。文治が絵本などでしか見たことのない囲炉裏があったというこの部屋には、父親の手作りの大きなテーブルがすえられていた。みんなで食事をしてもまだゆったりとできた厚い一枚板のテーブルに「忙しいときは本当に助かるわ」と母は父親に賛辞がこもっているのをアピールする。
 ここでひいじいは、父親に酒をついでもらい、父親がじぶんのコップに何度もつぎ足す間、ゆっくりと、なめるように呑み続けていた。そして最後には、「じいさま、そろそろやすんだらどうだい」邪険には聞こえない言葉で促されると、家の一番奥にある部屋に入って寝た。
 「文治、じいと一緒にねよか?」
 文治はひいじいに呼ばれても、TVゲームをしたままきこえないふりをしていた。
 「おじいさん、文治はあ、ゲームをやっていてえ、手が離せないというからあ、一人でやすんでいてください」
 母親が代わりに、夜の闇の中まで突き刺さるような声で、たっぷりと悪意をやさし草でできたオブラートで包んでひいじいに渡した。
 「はは、それがいい。年寄り臭さが移るぞ。それ、文治、加齢臭ビーム!」
 父親も、出来上がりの時間を迎えていた。
 実は文治も、ひいじいと一緒にされるのはいやだった。文治がひいじいを嫌う理由を、すでに母親は、一年生に入学した直後から訴えられていた。
 いじめまでにはいたらないであろう、同級や近所の子からの冷やかしであるという。
 「川の通学路で、しらねえ子にも、おはよういってるのな」
 「泥大根持って、頬ずりしてたぞ」
 「堤の桜と、長生き比べしようといってた」
 「空豆の莢に、早く地面を向いておくれって頼んでんの見たわ」
 「大きなジャガイモ持って踊っていたぞう」
 「カボチャの雌花に、元気に育つんだようって何度も繰り返すんだって。うちの母ちゃんが見てて、家に帰るまで笑いがとまらなかったって」
 文治はからかわれたことを、家に帰ってから母に訴えた。
 「おじいちゃん、文治が学校で友達からいじめられますからー」
 父親が茶碗にお酒をついでやりながら、母親にたしなめるでもなくいった。
 「おっかあ、じさまは、もう半分、仏様んとこお世話になってんだから、なに言ったってわかんねえよ」
 ひいじいは茶碗に一杯だけの酒を、ゆっくりとなめながら、聞こえない声でいった。
 「なに、きこえとるわ」

 文治はめったに寝込むことのない子だったが、その年の冬、学校に流行したインフルエンザの仲間に加わって休んだ。
 父親が車で市立病院まで連れて行き、薬をもらってきた。
 「父ちゃん、書類書いてもらうときは、あたしが文治を連れてくから」
 車を裏に回しておくためにキーを受け取りながら、母親は仕事を休んでくれた父親を労った。
 陽のさしこむ八畳間に文治は、暖かそうにしつらえられた、赤い来客用の布団に寝かされていた。昼の投薬を終え、しばらく寝ているとひいじいが部屋に入ってきた。
 「文治、お薬のむかー」
 文治はうろたえて、布団の中にもぐりこみ、丸くなってみがまえた。隣の部屋にいた母親がすぐに気づいて部屋に来た。
 「おじいさん、文治はお医者さんからインフルエンザの薬をもらってきてるんですから、変なもの飲ませないでください」
 「そうか~」
 と、残念そうに、丼の中身を自分で飲んで、部屋を出て行った。

 「文治、ひいじいから何かをもらっても、食べたり呑んだりするんじゃないよ」
 母親の言葉に、文治は素直にうなずいた。

 春になって、家で飼っていたのだが、名目は文治が飼っていることになっている鶏が雛を孵した。文治は喜んで、雌鶏のおなかの下を出入りしているひよこを、あかず眺めては興じていた。
 しかし、少し大きくなったところで、生まれつきのものだったか、ひよこの一羽が死んでいるのを、学校から帰ってきて、鶏小屋を開けた文治が見つけた。ひよこは鶏小屋の中で、無造作に道端にうち捨てられた死体を演じていた。

 「お母さん、ひよこが、ひよこ」
 嗚咽しながら訴える声が意味のある伝達手段になったのは、母親がようやく文治のはっきりとしない物言いにいらだち始めた頃だった。もう少し遅れていたら、文治自身に癇癪の白い指が赤く痕づいたかもしれなかった。
 「おーいやだ、気持ち悪いッたらありゃあしない。生き物飼うと必ずこうだからね。文治、片付けられるよね?いやだったら、ひいじいに頼むんだよ」
 卵は喜んで使うくせにと、文治はひいじいを探しに畑に向かった。それでも小さい頃は、この道をひいじいと歩いた憶えはあったなと、文治は都合頼みする自分を思った。
 畑に着いて文治は、ひよこの一羽が死んでしまったことをひいじいに告げた。
 「そうだったか、坊、悲しいの、つらいの、よく我慢したの、えらい子じゃ、よしよし、それじゃあすぐに、ひいじいと一緒にひよこさんのお墓、つくってあげような」

 夏の初め、ひいじいが畑の中で、座り込んでなくなっていることが、近所の人から家人に知らされた。鍬を両手で支え、腰を下ろして、眠るように亡くなっていたという。
 文治は畑に行くのを止められはしたが、亡骸が家に連れてこられて、これだけは惜しげなく新しいシーツの上に横たえられたとき、自分から進んでひいじいのそばに座ることを望んだ。
 ひいじいと一緒に寝て上げられることができなくなった今、春からの数少ない同衾のことを想い、幼い考えであったとしても、なぜじいと話をもっとして上げられなかったのか、なぜ同じ道をあるいてあげられなかったのか、なぜ・・・と考えてみた。
 「あーあ、やっと、てとこだな」
 「もう九十かしらね?」
 文治にはまだ思いも知れないが、生き死にの軽さはやがて、自分にも巡っては来る。
                                       了
[ 2012/05/27 13:16 ] たぬきばかし | TB(1) | CM(0)

かんのんやまのたぬきさん

 かんのんやまのたぬきさんは、畑に行って、畑を耕していました。でも、お日様はかんかん、少なくなった毛の頭を照らしてくるし、喉は渇いて冷たいものを呑みたくなってくるし、とうとう「えい、やめた。やめて、うつにけえる」とお家に帰ってしまいました。
 そして、冷蔵庫から、ギンギンに冷やした麦の麦芽ジュースを取り出すと、ゴクゴクと、それはそれはおいしそうに呑みました。お話はこれでおしまい、よかったね~
 (たぬきさん)ちょっとまったあ、それで終わりなんて、それじゃあボクが灰汁多川賞に応募した小説が抜けちゃうでしょう。タイムスケジュールのチェック、きちんとしてくださいよ。
 (編成)クレームにより、最初からはいります。




 おはなし・・・野原の一本の木とリス
 あるところに、小さな森がありました。森は小さかったけれど、沢山の木が生えていて、沢山の花が咲き、沢山の木の実を、その森に住んでいる動物達に、与えてくれました。そして、この森で、リスの夫婦が「りすのおやど」という小さなホテルを開いていました。
 ところが、ある年の、ある月の、ある日、大きな大きな、そっれは大きなじしんが起きて、そうして、そのあとからやってきた、とおっても大きなつなみで、この森の木は、一本の木を残して、みいんな、流されてしまいました。その、流されることのなかった木というのが、リスさんたちがプチホテルを開いていた木です。
 なにもかも流されて、広い原っぱに一本だけ大きな木が残されています。リスの奥さんのおなかには、赤ちゃんが育っています。
 「あんた、どする?」
 「ん、なんも。お客さん、まってるだ」
 おおきなじしんとつなみが来たために、お客さんはだあれも来ません。
 「あんた、どする?」
 「ん、なんもかわんねーよ。うちはやどやだ」
 お客さんが来ないので、お食事のどんぐりや木の実は、ぜーんぶ残ってしまいます。それでもご主人は、あっちの遠い森、こっちのもおっと遠い森に出かけては、木の実を沢山採って来ました。
 「あんた、つかれない?」
 「うちは、やどやだ。せっかくきてくれたお客さんに不自由させちゃなんねえ」
 「そだね。あんた、ほらみて」
 奥さんは、それはそれは可愛らしい、りすの赤ちゃんを授かっていました。
 二年がたち三年がたち、ひとり二人、立ち寄ってくれるお客さんもできましたが、相変わらず、宿屋のお客は、多くはありませんでした。
 「あんた、どする」
 「なんも。疲れた人が、休めるところは、なくちゃなんねえ」
 「そだね」
 赤ちゃんリスは、黙って見上げていました。

 何十年かたちました。大きな森に、それはそれは大きなホテルが建っていて、この道を行く旅人に、安らかな眠りと、今日もまた元気に歩いてゆける朝を提供していました。宿屋の主人は、いつかの、あのリスの夫婦のお孫さんです。お客さんが来なくとも、一生懸命に遠くから食べ物を集めて、残った木の実も、いつかは大きな木になると、なにもなかった原っぱの、あっちにもこっちにも、せっせと植えていたのです。いつかは、その木も大きくなって、いつかはこの道も通る人が増えて、と。
 りすのだんなさんも、おかみさんも、それを信じていました。そして、りすの子どもも、そのこどもも、豊かな森が、実りとやさしさを分けてくれるだろうことを、かたく信じていたのです。・・・お話はおしまいです
[ 2012/05/26 13:34 ] たぬきばかし | TB(1) | CM(2)