春の夜の夢



 夕刻となるのに幼猫のトラとテンの姿が見えない。いつもならば靴下に絡みついて小さな牙を押し付けてくるのに、あたりの鳥獣にでも悪さをされたのかとガラス窓を開けて首を出し呼びかけてみるのだが物音はしない。私の食事も終え、本を開くにも気がかりで小一時間ほどに窓を開け同じ所作を繰り返してみる。それが何回目かの外の様子見になるのか、カエルたちの合唱がより大きく聞こえてくる時刻、闇の音とカエルたちの声に交じってかすかな鳴き声が遠く聞こえる。それが幼い猫たちの声であろうことは待ちくたびれている耳にはよく聞こえてくる。田舎暮らしの夜は早くから暗くなり明りのない藪の方角は空との境もつきがたい。小さな100円のライトでも最近のものは明るい。用心して足元は長くつにし藪の中に分け入った。ライトとは物のないところで光を届かせるもの。何とか足元の確保だけをしながら猫たちの反応を頼りに進む。家の裏手は雑木林。何もなければ十数メートルの距離なのであろうが、漆黒の闇の中の藪はどこまでも続く迷宮。ようやくかぼそかった猫の声が聴き分けられた。その方向にライトを向ける。どうやってそこまで登ったのか、手を差し伸べても届かないほどの木の股に2匹の仔猫が鳴いていた。家に戻って脚立を持ってくる間、見捨てられた罪人を演じていたとしてそれはつかの間のこと、二匹の猫は無事布団の隅で眠れることになり今日の日となる。
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[ 2017/04/16 10:37 ] 妄想シリーズ | TB(0) | CM(0)

観音山は大騒ぎ2



 「ああ~、こんな雨と風ん日は、へるまっから酒吞むにかぎらあ」
 「そうでやんすねえ、時におやびん!観音小町のテン子ちゃん・・・」
 「そうだってね、いっま大騒ぎよ、もう、ああ早くテレビでやんないかな!」
 「ん?」
 「おやびんは畑仕事と捕り物以外何にもしねえっからなあ!」
 「なんだってんだ、こうして付き合い酒やってんじゃあねえか!」
 「いえね、テン子ちゃんて、角ンとこのカツブシ屋の、そりゃあまあかわいい娘さんがね・・・」
 「NKBに入ってる娘なんですがね・・・」
 「こんどのじゃんけん大会で優勝して・・・」
 「センターやることになって・・・」
 「今度の町のお祭りでもパレードのミス観音やるんですよっと!」
 「???なんだそりゃ?」
 「NKB,知らないって人ああめんずらしいねえ!」
 「ねこにゃんにゃんこんなに美人っていうアイドルグループですよ!いま大人気なんですよ!」
 「ん、テン子ちゃんなら知っているがな、しょっちゅうおもらしして泣いていた子だなあ、たしか?」
                     ハイ次回に
[ 2013/09/25 17:34 ] 妄想シリーズ | TB(0) | CM(0)

観音山は大騒ぎ!



 娘さんが問う!「前の人形劇、どうなったの?」
 賢明でシリアルなる我がブログの閲覧者・読者なら、立派に猫太郎のお話は大団円に終了したことを知っているのだが、何せ、不定期・その場思いつきストーリーなので、一般読者にはなじみにくかった。だけど終わったのです。
 という、強面談判で終了させられるほど強気ではない。仕方なく、次のいい加減話を考える。何せ、人形の持ち主がシャドウに蠢く。次のお話は、「観音山は大騒ぎ!」観音坂下美容室たより。
 なお、縮尺の違う人形は、頭の中で同一倍率に変更してください。
 ストーリーは、お馬かロバさんのような美容室兼理容室のごくつぶしのパンダンなさんのお話です。このパンダさん、この人形世界の目明しさんなんです。いわゆる髪結いの亭主の十手持ち。どんなお話かは次回から。
 (次回が1年後でも、どうか許してください)
[ 2013/09/24 19:23 ] 妄想シリーズ | TB(0) | CM(0)

ボーン・ホリディ



 まっすぐに女のところに帰る気がしなくて、少しばかり残りのある休暇をどうしようかと、宙港の中で発着表示を見ていたところに声をかけられた。男は銀河観光局の公式ガイドライセンスを提示し、古都星ミヤッコのガイドで今、前のお客を次の星に送り、これから帰るところだ。良かったら格安でガイドをしてくれるという。今行けば、あちこちで行われる古い祭りも見られるし、何より、アダシーノの骨祭りを見ることができるという。私は格安でいいからというガイドに公定並みの料金を取られた。

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 ミヤッコは古い星で、数々の古戦場や古代建造物が残され、それと同時にさらに古い、化石年代の遺物が重層的に地層に含まれ、断層地帯には露出もされているという。
 いかがわしそうなガイドの話では、アダシーノは歴史時代から様々な動物の死骸の捨て場にされていたという。のみならず、それ以前からこのあたりは、死期を迎えた動物達の終焉の地となっていたという。さすがに、それに敬意を払ってか、襲う動物もなく累代獣達は骨を重ねていったという。
 多くの骨の堆積で今は平地となっているあたりの丘陵地帯は、地質時代には深い河岸浸蝕地で、大昔に消え去った古代河川の作った深い谷の、泥の中はおびただしい生物達の残渣で埋め尽くされているのだという。さして興味も持てない私は、珍しいからと連れてこられた祭りの始まりを待っていた。


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 この土地にのみ咲くという野草、虹蛍草はどんどん訝しくなるガイドの連れて来てくれた「死者の、火の祭り」の頃に、夜になると銀色の花を闇の中にほのかに光らせるのだという。
 埋葬の習慣を持たないこの星の人々が打ち捨てていく白い骨の山の間に、想いをこめて春三月のヒーガンの祭りに球根を植えておくと、「死者の、火の祭り」のときに、虹蛍は死者の面影を持った花を咲かせ、問いごとにも応えてくれるという。
 「妻が亡くなりましてね。ヒーガン祭りのときに球根を求めて、植えておいたんですよ」
 ガイドは太い声を、ことさらトーンを低めて言い放った。
 「幼なじみの、愛し合っていた妻ですから」 
 あちらこちらで、咲き出した虹蛍のまわりを、人が囲んで話しかけている。簡単な会話なら可能なことは、先ほどガイドから聞いていた。
 「私の妻は、古代の河の民の最後の一族でしてね」
 幼なじみだったという言葉を繰り返し、続いて同じように穏やかな調子で私に告げた。
 「私が殺して、この谷に放り込んだんですよ」
 私も静かに聴いていた。そういうことも、あるのだろうから。この、銀色の星の国では。

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 やがて、あちらこちらで虹蛍が満開になる頃、谷がゆっくりとせりあがり始め、次には、さらに静かに大きな力で崩れ始めていった。
 巨大すぎる河の亡霊が女を戴いて、谷を流し始めていた。
 「妻の虹蛍が咲いたのでしょう」
 「そうですね」
 流されながら私はガイドの男にうなずいた。もう、女のところに戻ることもなく、この星で死の住人になるのだ。
[ 2012/08/16 15:36 ] 妄想シリーズ | TB(0) | CM(0)

さあ、行こうか!



 「お花、沢山咲いているかな?」
 「ぼく、やさし草にあってみたい」
 「あたしは、微笑み草を観て見たい!」
 「あえるかな?」
 「あえるさ、みんなでたずねて行くんだもん!」
 「行ってらっしゃい」
 「気をつけてね」
[ 2012/06/22 08:31 ] 妄想シリーズ | TB(0) | CM(0)